転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


54 お爺さんの正体



 ロルフさんは僕によろしくって挨拶した後、ふと何かに気が付いたかのような顔をして、それから何故か申し訳なさそうな顔になった。
 急にどうしたんだろう? って思ってたら、

「そう言えば坊や、いやルディーン君はここが錬金術ギルドだと解って訪れたと言っておったのぉ。もしかしてポーションか魔道リキッドを買うために来たのではないかな? だとすると、申し訳ないのぉ」

 どうやら僕が何故ポーションや魔道リキッドが売ってないのか聞いたから、それが目的でここに来たんじゃないかって思ったみたいなんだ。
 でも、僕がここに来た理由はそんな事じゃないから問題なし。
 ちゃんと大丈夫だよって、教えてあげる事にしたんだ。

「だいじょうぶだよ! ぼくがここへ来たのは、ようかいえきってのが欲しかったからなんだ。まどうリキッドを作るのにいるんだよね?」

「おおよく知っておるのぉ。そうじゃ、魔道リキッドは魔石に魔力を流し込んで溶かしたものを溶解液で溶き、それを水で薄める事によってできるんじゃ。あっ、溶かす時の魔力の流し込み方は知っておるか?」

「ふつうにじゃダメなの?」

 僕はてっきり魔石に魔力を流し込めばそれで解けるもんだと思っていたんだけど、違うのかなぁ?

「普通に魔力を魔石に流し込んでも活性化するだけじゃ。ほれ、先ほど渡した火の魔石があるじゃろ、それに魔力を流してごらん」

 ロルフさんにそう言われたから、僕は手元にあったビンの中の火の魔石に魔力を注ぎこんでみた。
 そしたら火の魔石が急に光りだして、それと同時に周りの空気を暖めだしたんだ。

「ほれ、普通に魔石に魔力を流し込んだとしても活性化してしまうだけで溶ける事はない。そもそも魔力を流し込んだら溶けるというのであれば魔道具を作っても動かす事はできんじゃろう。魔道リキッドを使わない時などは直接魔力を流し込むのじゃから」

「あっそうか、そう言えばそうだね」

 そう言えば村でも草刈機を使う時、僕は魔力を魔石に流し込んで使ってたっけ。
 魔力を流すだけで魔石が溶けるのなら魔道具は使うたびに壊れちゃうよね。

「うむ、じゃから溶かす時は特殊な魔力の流し方をするんじゃ。これは普通、ある程度下級ポーション作成に慣れてから挑戦するものなんじゃが、ルディーン君は魔力の扱いになれておるようじゃから問題は無かろう」

 そう言うと、ロルフさんはカウンターの下から米粒程度の魔石と大き目の木のコップ、そして小さなビンを取り出した。

「そろそろギルドの明かりにリキッドを補充せねばならんと思っておったところじゃから丁度いい。ルディーン君、やり方を教えるから魔石を溶かして見なさい」

 そして魔石をコップの中に入れて僕に差し出したんだ。

 ロルフさんの説明によると、魔力を溶かす時は中心辺りに魔力が集中するようなイメージで魔力を注ぎ込めばいいらしい。
 そうすると魔石の中心部だけが活性化して、そのエネルギーによって魔力の結合が弱くなって溶け始めるんだって。

 と言う訳でそこまでやってみる事にする。
 魔石全体ではなくその中心に魔力が集まるようにイメージして、僕は魔石に魔力を込めて行った。
 すると全体が赤く光ったさっきの火の魔石と違って、目の前の透明な無属性の魔石は中心部だけがだんだんと光を放ち始めたんだ。

「あっ光った!」

「うむ、ちゃんと中心部だけが光っておるのぉ。注ぎ込んだ魔力によって魔石の中だけが活性化した証拠じゃ。これにこの溶解液を加えると」

 そう言ってロルフさんは横においてあった小さなビンを手に取り、その中の液体をほんの少しだけコップの中に入れた。
 するとその液体がかかった魔石は、シュウって音を鳴らして溶けちゃったんだ。

「このように表面の膜状になっていた部分が解けて、中に封じ込められておった粘性のある魔力に戻っておった魔石がでてくる。そしてそれが溶解液に混ざる事によって元の魔石に戻る事は無くなるから、後はこの水を入れて」

 そう言って近くにあった水差しを手に取って、中のお水をコップいっぱいになるまで入れたもんだから僕はびっくり。

 だってさぁ多分あのコップ、350〜400mlくらい入ると思うんだけど、コップの中には米粒程度の魔石とほんのちょっとの溶解液しか入ってなかったから、僕はきっとその半分くらいまでお水を入れるんだろうって思ってたんだよ。
 でもそれがなんとコップいっぱいになるまで入れたもんだから、僕は本当に驚いたんだ。

「このようによくかき混ぜれば魔道リキッドの完成じゃ」

 そしてそんなびっくりしている僕に気づくこと無く、ロルフさんはペン立てに指してあったマドラーのようなものでそれをかき回して、完成した魔道リキッドを僕の前に差し出しながら笑ったんだ。

 出来立ての魔道リキッドは無色透明で、匂いを嗅いでも普通の水と見分けがつかない状態だから、このまま机の上にでも置いておいたら誰かが間違って飲んじゃいそう。
 あれ? でも売ってる魔道リキッドって色が付いてなかったっけ? そう思ってロルフさんに聞いてみたらそれは色をつけているのじゃよって答えが帰って来たんだ。

「見ての通り魔道リキッドは無色透明、無味無臭じゃからのぉ。そのまま売ると水と間違える物も出てくるやもしれん。じゃが値段は天と地程違うのじゃから間違えぬよう売る場合はわざわざ色をつけておるのじゃよ。じゃが、今回は明かりの魔道具にすぐに入れてしまうつもりじゃから色など付けないと言うわけじゃ」

 そう言うと、ロルフさんは立ち上がって壁にぶら下げられているビンのようなものの所まで行って、たった今作った魔道リキッドをその中に流し込んだ。
 ランプのような魔道具じゃなくあのビンに全部入れたって事は、あれがこの錬金術ギルドの明かりの魔道具全部に繋がってるって事なのか。
 魔道リキッドが切れそうな時にいちいち全部の魔道具を回ってそれぞれに入れてたら大変だもん、これはとっても便利だなぁって思う。
 将来魔法の明かりを家につける時は僕もこうしようって、これを見て思ったんだ。



「さて、ルディーン君には魔道リキッド作りを手伝ってもらったことだし、この溶解液をその報酬として差し上げるとするかのぉ」

「ええ! いいの? ぼく、まりょくをながしただけだよ?」

「ほっほっほっほ。錬金術師の手間賃は安くないと先ほども言ったじゃろう。それに溶解液自体もそれ程高いものではないから、そう心配するでない。その小瓶1本で銀貨10枚程度じゃ」

 銀貨10枚って事は1000セントって事だから前世のお金で1万円って事だよね? これだけでそんなにするなら十分高いよ! そう思ってもらえないって言いかけたんだけど、ロルフさんの言葉はそれだけじゃなかったんだ。

「それに実の所、ルディーン君に作ってもらった下級ポーションの値段が先ほど渡した火の属性魔石より高くてのぉ、それにこれをつけて丁度いいくらいなんじゃよ。じゃから遠慮なく持っていくが良い」

「そうなの? う〜ん、じゃあもらってくね」

 ほんとの所はよく解んないけど、ここまで言ってくれてるのにぜったいに受け取らない! お金払う! て駄々をこねるのはダメだと思うんだ。
 だから僕はロルフさんからの贈り物を喜んで受け取ることにしたんだ。


 ■


 カランカラン。
 軽い感じのベルが鳴ったのでドアの方に目を向けると、そこには少し困惑した表情の女性が立っておった。

「おお、お帰りギルドマスター」

「あっ、ええ、ただいま戻りました。って伯爵、またこの様なところで店番の真似事をしてらっしゃるのですか?」

「おいおい、ワシはもう伯爵ではないと何度言えば解るのじゃ? 家督なんぞ当の昔に譲ったと言っておるじゃろう。それどころが息子も隠居して今は孫が現在の伯爵じゃというのに」
 
 我が家系は趣味に生きる者が多く、歴代の党首はその趣味の没頭する為に跡継ぎが育つとさっさと爵位を渡してしまうんじゃ。
 ワシも34で家督を譲られてから20年ほど伯爵をやっておったが、息子が成人すると同時に仕事を教え始めて、18になり十分に家督が継げると判断すると仕事の全て押し付けて隠居、錬金術師として生きておる。
 そう言えば息子は魔道具ばかり作っておったのう。
 まぁワシも息子も民の税には手は出さず、自分たちの研究によって得た金で道楽をしておるのじゃから誰に批難される訳でもない。
 唯一自分の子に家督を譲る時だけは、非難の目を向けられるがのう。

 因みに現党首は美術と美食に傾倒しておると言うから少し心配しておったのじゃが、王都や地方都市に仕事で赴いた時にそれぞれの名店を勧誘、このイーノックカウに出店させて観光で訪れるものを増やしておると聞くからあれはあれで問題はないのかもしれん。

「時に本来の店番であるペソラさんはどこへ?」

 ワシが孫のことを考えておると、ギルマスからこんな質問が。
 まぁ、ワシが代わりにここに座っておるのじゃからその疑問を持つのは当たり前か。

「ペソラ嬢か? 彼女ならエーヴァウトの所に書簡を届けさせた」

「また伯爵様のところへですか? どうせ殆ど何も書いてないものをお渡しになられたのでしょう。はぁ、伯爵がここにいつも座られているので、ギルドに加盟しているものが困っていると言うのに」

「だから伯爵ではないと言っておろうに。それに何が困る事がある? ワシがここにいても別に問題は無かろうに」

 ワシはいつも静かに本を読んでいるだけじゃと言うのに、何が問題だと言うのじゃ? そう思って聞き返したのじゃが、ギルマスはどうやらワシとは違った意見を持っているようじゃな。
 小さく頭を振りながら右手を額に当て、ため息をついておる。

「殆どのギルド加盟者は平民なのです。いえ、貴族でもこの街に住んで居る者ならば伯爵を前にしたら普通に接する事などできないのはお解りでしょう」

「そうかのぉ。なるべく接しやすいよう、庶民派伯爵を自称しておるのじゃが」

「爵位に庶民派も貴族派もありません」

 そう怒らんでも良いのに。
 第一、ギルマスだって子爵家の者なのにワシを怒鳴りつけておるではないか。
 皆、このようにワシに接してくれれば何の問題も無いと思うのじゃが。
 そう、今日ギルドに来たルディーン君のように。

「おおそうじゃ。今日、面白い坊やが来店してのぉ」

「子供がですか? ならばどこかの貴族家の子でしょうから、伯爵が店番をしているのを見て驚かれたのではないですか?」

「いや、平民の子じゃった」

 ワシの言葉に大層驚くギルマス。
 それはそうじゃろうて、錬金術と言うのは何かと金のかかる技術じゃから平民がほいほいと身に付けられるものではないからのぉ。

「平民ですか。それではどこかの大商会の御子息でしょうか? しかしそれならば伯爵のお顔を知っていてもおかしくはないと思うのですが」

「いや、そうではない。グランリルから来たと言っておった」

「グランリル? と言うと、あのグランリルですか? あそこに生まれた子が錬金術を……信じられません」

 帝都の兵士たちでさえ太刀打ちできないほどの剣と弓の使い手がそろっていると言われるグランリルの村。
 そこに生まれた子が魔法や錬金術に興味を持ったというのだから、ギルマスが驚くのも無理はなかろうて。

「ルディーン・カールフェルトと言う名の子なんじゃが、彼はすでに魔法も使えるし魔力の操作も一流と呼べるほどじゃと言うのに、なんとまだ8つだと言うのじゃから恐れ入る。それにワシが教えたら何度かの挑戦で下級ポーションを完璧な状態で作り出せるようになり、その上火の属性魔石作成も簡単に成功させたのじゃ。信じられるか?」

「本当なのですか? いえ、伯爵がそう仰るのでしたら事実なのでしょう。しかしそれが本当だとすると」

「うむ、地方ではまず手に入らない高位の属性、氷や雷などの魔石を10年もすれば作れるようになるかもしれんのう。夢が膨らむわい」

 ただでさえ錬金術の使える高位の魔法使い少ないのに、その殆どはは出世して中央に行ってしまうから地方都市には殆どおらん。
 そしてこのイーノックカウ周辺には1人もおらんと言うのが現状で、氷や雷の属性魔石は手に入れようと思っても中央まで足を運ぶか、商人に高い金を払って運んでもらわねば手に入れられないと言うのが実情じゃ。
 しかしルディーン君がこのまま成長し、魔法の腕をあげてくれれば彼がその供給源になってくれるかもしれんのじゃから、ワシがこれだけ興奮するのも仕方がないことじゃろう?

「しかし、そうなると伯爵が対応したのが問題になりませんか? それ程の子ならば、才能を知った伯爵に取り込まれるかもしれないと親が考えてもおかしくはないですし、気付かれれば以後イーノックカウに近づけさせないようにするかもしれません。その子はともかく、親は流石に伯爵の事を知っているでしょうから」

「ああワシもそう思って家名は名乗っておらん。それにファーストネームも知られている可能性があるからとミドルネームであるロルフと名乗っておいた。これならば親御さんが聞いたとしてもワシとは気付かぬじゃろうて」

 そう言ってワシは、ほっほっほと笑ったのじゃった。


 ランヴァルト・ラル・ロルフ・フランセン元伯爵。

 彼は爵位こそ孫であるエーヴァウト・ラウ・ステフ・フランセンに譲り渡しているものの、錬金術の腕と新たな発見の数々により未だ中央に対しても未だ大きな力を持つ、このアトルナジア帝国でも有名な大貴族だった。


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
 その時は衝動のページとしてのリンクを外しますから、それまでにこのページに直接リンクするか、リンクの部屋の説明文にある最後の。をこのページにリンクさせているので、以降はそのどちらかからこのページにアクセスしてください。
 リンクを切ってからも今と同じペースでこのページに最新話をアップするので。

55へ

衝動のページへ戻る